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凛「プロデューサーってさ……」

公開日: : 最終更新日:2014/04/06 しんみり ,



1:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2013/06/03(月) 23:30:36.13 ID:pG0rEEGC0

「プロデューサーってさ、」

助手席で黙ってスマホをいじっていた凛が不意に声をあげる。

「……なんだ?」

こういう雰囲気の凛の言葉に、あまり良い思い出がない俺は、やや突き放したような声で応じる。

「一体、何なんだろうね?」

軽い溜息と共に吐き出される言葉。

「お前達を輝かせるための裏方だよ」

それに対して、とりあえず当たり障りのない言葉を返した。
凛がこういう言葉を嫌うのは承知の上だが、間違ってもいないので文句も付けづらいだろう。
要するに様子見である。

渋谷凛(15)
渋谷凛(15)


2:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2013/06/03(月) 23:32:59.01 ID:pG0rEEGC0

「そういうことじゃなくて!」

案の定、凛は少しだけ感情を表に出してこちらを向く。

「じゃ、どういう意味だ?」

「……これ」

俺の冷めた言葉に、凛はやや剥れた様子でソッポを向いてから、いじっていたスマホを俺の方へ向ける。

「こらこら、俺は運転中だぞ」

「見なくても、何見せようとしてるか分かってるよね?」

「俺はエスパーじゃないぞ?」

「知ってる。私のプロデューサーだよ」

こういう言い方を、一体どこで覚えてくるんだか。


3:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2013/06/03(月) 23:35:33.56 ID:pG0rEEGC0

俺はさっき凛がしてみせたような溜息を一つしてから、

「加蓮によく似合ってるだろ?」

そう言葉にした。

「……別に、プロデューサーが贔屓してるなんて思ってないけど」

俺の口調に感じるものがあったのか、少し拗ねたような声音で凛は言う。

「でも、少しは話してくれたって良いと思う」

「今日の収録のこと、加蓮には話してないぞ?」

「そりゃ、そうかもだけど……」

凛は基本的に論理的で、理性的な子だ。と、少なくとも俺は思っている。

「俺は俺なりに、その仕事に合った子を選んでるつもりだ」

だから、こういう物言いに弱い。

4:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2013/06/03(月) 23:37:19.21 ID:pG0rEEGC0

「だから、それは分かってるってば。加蓮、よく似合ってるよ」

それを自分でも意識してるのか、単純に勢い任せで感情をぶつけるのが苦手で、
結果的に凛はこういう回り道をするための言葉を、実に苛立たしげに言うのである。

「それじゃ、何が不満なんだ?」

そういうところが凛の美徳でもあるのだが、そういう状態で放置すると、大抵は碌なことにならない。
これは凛に限らない話だが、そうならないためにも、感情はできるだけ吐き出してもらう必要がある。

「……ウェディングドレス着た加蓮とツーショット撮る必要、無いよね?」

「それを言われると辛い」

そのために俺は薮蛇と知りつつも彼女を突っついて、挙句何とも気まずい告発を受ける事になるのだが、これはもう職務上致し方ないことなのだろう。

「そこは認めるんだ」

「まぁ、仕事を逸脱しちゃったとこだからな。一応、緊張を解すためって名目はあったけど」

「ふぅん……」

俺の申し開きに、凛は軽い溜息をまた吐いた。
しかし、今度の溜息はどちらかというと、決して悪くない感情を溶かし込んだ溜息だった、と思う。


5:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2013/06/03(月) 23:39:30.59 ID:pG0rEEGC0

「加蓮ってさ」

「なんだ?」

そして、やや遠い口調で凛は、

「良い子だよね」

突然そんな事を言い出した。

「なんだ、藪から棒に」

「ん~、何となく」

本当に何となく、なんだろう。窓の外を見るとはなしに見ている凛は、それ以上何も言わない。

「そりゃまぁ、俺のアイドルだからな」

「ふふ、そういう風に堂々と誇ってくれると、嬉しいな」

それまでの、ピリピリした感じがすっかり消え去り、
口元を緩めてさえいる凛の感情は、今一体どこにあるのだろう?


6:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2013/06/03(月) 23:41:16.41 ID:pG0rEEGC0

「友達としてか?」

「うん。それに、あなたの担当アイドルとしても」

ほんと、こういうの、どこで覚えてくるんだろうか。

「勿論、お前の事も誇りだよ」

「ん、知ってる」

何とか自分のペースに戻そうと発した言葉もあっさりと飲み込まれた。

「ん~……プロデューサー?」

「なんだ?」

「ごめん。ちょっと、妬いちゃってた」

そんな俺のちょっとした敗北感を知ってか知らずか、凛はあっさりと感情を吐き出す。

「いいよ、別に。そうやって外に出してくれたほうが助かる」

それ自体は良いことなんだが……なぜだろう、何か負けたような気がしてしまう。


8:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2013/06/03(月) 23:42:49.88 ID:pG0rEEGC0

「プロデューサーはさ、真面目だよね」

「そうか?」

そうだろうか?
凛の発した言葉に自分を振り返ろうとした矢先、

「皆に優しくて、皆に冷たい」

そんな事を言われて、一瞬間心臓を掴まれたような心地がした。

「……そりゃどうも」

それは、俺自身意識してることだし、無意識的にそうしないといけないと感じて動いているものだ。

「そういうあなただから、きっと皆安心して頼れるんだよね」

「なんだか、釘を刺されてるみたいだな」

だけど、改めて外側からそう言われると、少しくるものがあった。
俺は、内心の動揺を悟られないように、できるだけ素っ気ない調子で言葉を探る。


9:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2013/06/03(月) 23:44:01.33 ID:pG0rEEGC0

「そういうつもりは無いんだけど……」

凛は、変わらず窓の外を見ている。
窓の外は普段と何も変わらない、都会の情景だ。

「ね、もし私がアイドルじゃなくて……ううん、やっぱり何でもない」

「まったく。そこまで言ったら同じだろ」

色んな人間が居て、色んな出来事が起こっている。
もしかしたら運命の出会いがすぐそこで起こっているかもしれないし、その逆も然りだろう。

「答え、聞きたくないし」

「……あんまり、小さい世界に生きるなよ、凛」

俺と凛が出会ったのも、この都会で、

「どういう意味?」

「いろんな意味。俺個人としては、向けてくれる好意はありがたいけどな」

凛との付き合いは、決して短くない。だから、お互いの事はそれなり以上に理解しているつもりだ。

「うん」

「凛くらいの年頃のそれは、麻疹みたいなものだから」

だけど、理解すればする程、分からなくなるのが人間なんだろう。

「……」

「そうだな、自分が納得のいくところまでアイドルの道を進んで、」

俺は正直なところ、アイドルではない渋谷凛を、もはや想像できない。そんな凛と接する自分のことも。

「何かを掴んだ時に、その気持ちがまだ本物だったら、それに身を任せても良いかもな」

10:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2013/06/03(月) 23:45:30.38 ID:pG0rEEGC0
「その時にプロデューサーが誰かのものになってたら?」

「直球だな、お前は」

「今更でしょ。そこまで鈍感な人なら、私のプロデューサーじゃないよ」

凛は、それを想像できるのだろうか?

「その時は、まぁその時に考えろ」

俺のこの答えは、俺に向けてのものでもある。分からないものを、無理やり想像したって無駄なのだ。

「えー、やだよ私。略奪愛なんて」

「やっぱり、身を引く選択肢は無いのな」

「身を任せても良いって言ったのはプロデューサーでしょ」

それでも。

「ん~……ま、少なくともお前がそうなってる頃までには独り身だと思うけどなぁ、俺」

「その心は?」

「一応、俺なりの覚悟というか、ケジメというか」

「……?」

想像はできなくても、そうありたいと願う姿を創造することくらいは、できるのかもしれない。
俺の言葉に再びこちらを向いた凛の視線を感じながら、

「初めて担当した子くらい、最後まで全霊を賭けて見守りたいというか、そういうの」

俺は何とも恥ずかしい台詞を口走っていた。

「ふぅん……」

「ったく、こういう事言わせるなよな、恥ずかしい」

「恥ずかしくないよ」

凛の視線を、痛いくらいに感じる。
知っている。こういう言葉を、決して笑わないのが渋谷凛だ。

「だって、私はこんなに嬉しいよ?」

「お前のそういう反応が恥ずかしいの」

そういうところが何より美しい、俺の自慢のアイドルだ。

11:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2013/06/03(月) 23:46:50.52 ID:pG0rEEGC0

「……因みに」

と、不意に凛の纏う空気が変わる。

「一応聞いておくけど、担当してる子で、一番『有り』なのって誰?」

「肇」

やや胡乱な調子で尋ねられた言葉に、殆ど条件反射で答えていた。

「……そこは即答なんだよね、いつも」

はぁ、と盛大な溜息を漏らす凛。

12:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2013/06/03(月) 23:48:07.74 ID:pG0rEEGC0

「いや、あんまり真に受けるなよ?」

申し訳程度のフォロー。いや、実際そこまで真剣に惚れた腫れたの話ではないのだ。
凛の言う通り、担当している子の中での、それも仮定の話をしてるだけで……

「別に、何度も聞いてるし今更どうこう思わないけど。ていうか、それなら肇にブライダルの仕事回せば良かったんじゃないの?」

俺の脳内言い訳をまるで聞いていたかのように、凛が呆れた調子で言う。

「仕事に私情は挟まないの」

「やっぱ、真面目っていうか、堅物っていうか……」

凛は再び窓の外を見ながら、

「何なんだろうね、プロデューサーって」

今日何度目になるか分からないため息を吐く。

13:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2013/06/03(月) 23:49:14.40 ID:pG0rEEGC0

「露骨に溜息を吐くな。幸せと仕事が逃げるぞ」

「幸せはともかく、仕事はそうだよね、うん」

「アイドルの基本。忘れるなよ?」

この状態で何を言うかと言われそうだが仕方ない。
目的地が近付いているのだ。そろそろモードを切り替えてもらわねば。

「ん、分かってる。こんな風に愚痴言うの、プロデューサーの前だけだから」

「加蓮や奈緒にも言わないのか?」

「言わないわけじゃないけど、違う感じの愚痴だよ」

「そうか。ま、ちゃんと友達付きあいできてるようで何より」

「……何か、子供扱いされてる」

視界の端で凛が剥れているのが分かる。だから、そういう顔するなってのに。

「最初の頃、遊びに誘われても断って一人で帰ってた生意気娘が何を言う」

「あ、あれは……!」

「同じ事務所だからって、馴れ合うつもりはない、だっけ?」

そういう指摘も込めてからかってやると、今日一番のトマト顔をした凛が見られた。

「もう、昔の話は禁止!」

凛の、歳相応な表情と声音に笑いながら車を止める。

14:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2013/06/03(月) 23:50:14.37 ID:pG0rEEGC0

「さて、頑張ってこいよ」

ちょっとやり過ぎただろうか。そう思わないでもないけど、まぁ勢いはついただろう。

「何だ、今日は挨拶についてきてくれないんだ」

憮然としながら車から降りかけた凛が少しつまらなさそうに言う。

「悪い。これからC局に迎えに行かなくちゃいけなくてな」

「C局……あぁ、そっか。この時間だと、肇だ」

ふんっと鼻を鳴らしながら俺の事を軽く睨んだ凛は、

「その顔やめろ。普通の送迎だよ」

「知ってます!」

俺の言葉に、べっと舌を出して見せてから、車を降りてさっさとテレビ局の中に吸い込まれていった。

15:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2013/06/03(月) 23:51:34.26 ID:pG0rEEGC0

「まったく……本当に、」

ロビーの中、警備員さんにお辞儀しながら私は一人ごちる。

「本当に、私とプロデューサーって、何なんだろうな」

スカウトした人間と、された人間。アイドルと、プロデューサー。大人と、子供。

「今のところは、だけど」

誰に話しているわけでもないのに、ついそう付け加えてしまう。
それがこの先、どう変わっていくのか。変えていくのか。変わってしまうのか。
それを知るのは怖いようで、楽しみなようで。

だけど、どっちにしても。今のままでは満足できない自分がいるのは、確かだと思う。

「麻疹、か」

プロデューサーに言われた言葉を思い出す。
恋に恋する、なんてよく言われるけど。それが本当なのかどうなのか。私もそんなものに囚われているだけなのか。

「それを知るためにも、今は一つ一つ登っていかないと」

いつか、あの人と同じ目線で話す事ができるようになれるところまで。
焦るなって、プロデューサーは言うけど。だったら、焦り過ぎない程度に、だけど最短で、そこまで登ってみせる。

だから……

「それまで待っててよね、プロデューサー!」


END



元スレ
凛「プロデューサーってさ……」
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  • 新年あけましておめでとうございます。 本日1月5日から平常更新再開いたしますので、改めて今年もよろしくお願いします。
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