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凛「プロデューサーってさ……」 – 神谷奈緒編

公開日: : 最終更新日:2014/04/06 いちゃいちゃ, しんみり ,



29:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2013/06/07(金) 01:15:45.37 ID:hyKEm4cU0

「おす、おはよ……」

初夏に入り、そろそろ空調をつけようかと思いつつも、倹約家の社長と事務員が怖くてまだ手が出せない自分を呪いつつデクスワークをこなしていると、後ろから遠慮がちに声をかけられる。

「お、奈緒。来たな」

その声の主こそ、俺の待ち人である。いや、他意は無いが、朝からずっと机に向かって仕事をしながら待っていた相手だから、多少は補正が掛かっているというか。
実際のところ、奈緒の姿を確認するや否や、思わず椅子を蹴飛ばす勢いで立ち上がってしまった。

「な、なんだよ。朝からテンション高いな」

奈緒はというと、そんな俺の様子にいささか以上に引き気味である。というか、明らかに何かを警戒している。

「まぁ、そう構えるな。新しい衣装があるわけでもなし」

何を警戒しているものかと考えて、すぐに思い当たった。俺がこういうテンションの時ってのは、大抵奈緒に何か仕事を頼む時なのだ。ついでに言えば、可愛い衣装がセットのことが多い。どうも、照れ屋の奈緒にはそれが(少なくとも表面上は)面白くないらしい。

「な、なんだ。無いんだ……」

と、いうのも過去の話かもしれない。奈緒は安堵の息を吐くと共に、どこか残念そうな素振りを見せた。

「期待させちゃったか?」

ようやく、染まってきてくれた、ということだろうか。

「べ、別に期待とかしてないってば、ばか」

照れ隠しの言葉も、最初の頃ほど語気が強くない。

神谷奈緒(17)
神谷奈緒(17)

30:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2013/06/07(金) 01:17:18.30 ID:hyKEm4cU0

「はは、悪い」

昔の、とにかく怒鳴るくらいの勢いの照れ隠しも可愛いものだったが、最近のこういう仕草はずるい。ファンに見せられないのが勿体無いくらいだ。

「……それで、私に用があるんじゃないのか?」

なんて事を考えていたのが伝わってしまったのかどうか。奈緒はやや睨むように俺を見ながら尋ねてきた。

「ああ、そうだ。凛から伝言。今日の夜、加蓮と一緒に奈緒の部屋に行くから掃除しとくように、だとさ」

そう、俺が彼女を待っていた理由はというと、何てことは無い。他の担当アイドルから伝言を預かっていたという、実に単純で瑣末なものだ。

「はぁ?」

その事実に、奈緒は目を丸くする。そして、聞きようによっては呆れすら混じった声で、

「まさか、そんな事伝えるためにこんな朝から事務所で待ってたのかよ?」

そんな事を言った。まさか。さすがに俺もそこまで暇ではないし、担当アイドルのためとはいえ、そこまでする慈愛の精神も持ち合わせていない。
31:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2013/06/07(金) 01:18:27.17 ID:hyKEm4cU0

「そんなわけないだろ。逆だ、逆」

「逆って?」

「朝早くから事務所にいたから、伝言板にされたの」

そう、ただ仕事のついでに伝言を預かっていただけなのだ。
まぁ、ちょっと休憩して朝飯食いに行こうと思っても奈緒が来たらと思うと席を立てず、ずっと仕事をしていた辺りは、小心者の悲哀だが。

「なぁ、Pさんって、プロデューサーだよな?」

俺の答えに、奈緒はさらに呆れを深めた声音で、実に失礼な事を聞いてきた。

「今更何を言う」

まったく、担当プロデューサーに対して何たる態度か、と憤慨するわけもなく。

「……威厳、無さ過ぎるんじゃないの?」

まぁ、そう思うよなという自覚はある。悲しいことに。

「そんな事はない。俺を伝言板代わりに使うのは、この事務所じゃ凛とちひろさんくらいだ。あ、あと川島さんと礼子さんもか」

「程々の威厳だな」

それでもなけなしのプライドを満足させるべく言った言葉を、しかし奈緒は一蹴してくれる。

「……泣ける事をしみじみ言うんじゃないよ」

なんとも情け深いアイドルだよ、この子は。

32:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2013/06/07(金) 01:19:31.51 ID:hyKEm4cU0

「それにしても、凛にも困ったもんだよな。人の都合も聞かないで勝手に集合場所に決めやがって」

そして、奈緒はというと、俺の低空飛行を続けるテンションにはまるで気もとめず、今夜のお泊まり会に思いを馳せているらしい。
口でこそ、こんな事をいう奈緒だが、

「奈緒」

「な、なんだよ?」

「口元、にやけてるぞ」

「う、うるさい、そこは空気読んで見ない振りしろよな!」

まぁ実際のところ、感情を隠すのが恐ろしく下手な子だったりする。まぁ、そこが見ていて微笑ましいところだが。

「相変わらず仲が良いな、お前達は」

凛に、奈緒に、加蓮の三人組はトライアドプリムスというユニットで活躍してくれているが、プライベートでもよくつるんでいるようだ。
学年も趣味も性格も見事にバラバラなのに……いや、だからこそ馬が合うのかもしれないな。バランスが取れているというか。

「まぁ、二人共良い奴だからな。アタシの趣味も笑わないし……」

「仲が良いのはいいが、あんまり遅くまで起きてるんじゃないぞ」

「分かってるよ。その辺心得てるから、凛も今日を選んだろうし」

なるほど。ホワイトボードを見れば、確かに、明日は三人ともオフだ。
33:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2013/06/07(金) 01:20:18.83 ID:hyKEm4cU0

「そういうのも勿論大事だが、休める時にはキッチリ休んでくれよ。身体が資本なんだから」

「分かってるってば」

俺の保護者然とした言葉に、奈緒はちょっと面白く無さそうに言う。言ってから、急に顔を赤らめたかと思うと、

「なんか、Pさんが身体とか言うとエロい……」

いきなりそんな事を言い出した。

「何が!?」

脈絡が無さ過ぎだ! 年頃の娘がなんて事を。

「何となく」

「勘弁してくれ。そういうの、割と敏感なご時勢なんだから」

こんな事を他人(特に緑の制服が大変似合っている事務員)に聞かれたら、事実かどうかはさておいて、俺が何がしかの面倒を被るのは火を見るより明らかだろう。本当に勘弁してほしい。

「ふぅん……」

俺の狼狽に、しかし奈緒の反応は薄い。ここでようやく、俺は違和感を感じた。
34:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2013/06/07(金) 01:21:05.74 ID:hyKEm4cU0

「奈緒?」

「な、なんだよ?」

何というか、会話に集中してない。一つ一つ話題を消化して、本当に自分がしたい話をする機会を窺がっているような、そんな気配。

「いや、何か用があるんじゃないのか?」

「用がなきゃ、事務所に来ちゃダメなのかよ?」

が、そう簡単にそれを認めないのも奈緒である。

「そうは言ってないが……いや、別にそれならそれで良いけど」

「うん」

こういう時、奈緒の場合は無理に聞きだそうとしても逆効果になる事が多い。
というわけで、俺は奈緒から話しかけてくれるまで仕事をしながら待つことにした。
ま、この感じだと十数分で話してくれるだろう。
35:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2013/06/07(金) 01:24:09.05 ID:hyKEm4cU0


「……」

「…………」

なんて見通しは、実に甘いものだったと、俺は今痛感している。
既に1時間が経過したが、奈緒は未だに俺の仕事ぶりを黙って見ているだけだ。

「……奈緒?」

いい加減、俺としても限界だったので強行突破を試みる。

「べ、別に何も無いってば! Pさんの仕事ぶりを眺めてるだけだし!」

「俺は何も言ってないぞ」

なんというか、サスペンスで自分からボロを出していく残念な犯人を思い浮かべてしまった。
本当に感情を隠すのが苦手な子だな。

「とにかく、何かあるなら言ってくれ。溜め込まれるのは困る」

「……これ、凛から回ってきたんだけど」

そっとスマホを差し出す奈緒。
その画面には加蓮が満面の笑みを浮かべている。俺の横で。

ようやく聞き出せたかと思ったらこれである。

「あぁ……奈緒、お前もか」

この写真、今週に入って見せられるの何度目だろうか。
36:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2013/06/07(金) 01:25:18.54 ID:hyKEm4cU0

「ど、どういう意味だよ?」

「いや、特に深い意味はない。最近その写真についての釈明ばっかりしてる気がしててな」

「釈明って……別に悪いことしてるわけじゃないのに」

俺は何となく暗殺される政治家の気持ちに浸っていたが、奈緒の予想外の反応にそんなものは吹っ飛んだ。

「え?」

「なに?」

見事なすれ違いだ。これはお互いの認識の間の溝を埋める必要があるようだ。

「いや、うん……ちなみに、奈緒はその写真を俺に見せて、何を言いたかったんだ?」

「あ、うん。加蓮、似合ってるなって」

これは想定内の回答だ。

「……それだけ?」

「そ、それだけ」

「じゃ、ないだろ。その続きがありますって顔してるぞ」

ここは慌てず、奈緒の本音を探る。
37:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2013/06/07(金) 01:26:41.60 ID:hyKEm4cU0

「ま、まぁ、多少はある、かもだけど」

「言ってみてくれ」

「いや、でも……」

「別に怒りも笑いもしないから」

ここまでくると無性に知りたいというか、知らなくちゃいけないという義務感めいたものまで芽生えている。

「ほ、本当だな?」

そんな俺の気迫が伝わったか、奈緒もいよいよ腹を括ったらしい。なんて、大袈裟すぎる表現な気もするが。

「絶対だな?」

「そう念を押すなよ。少しは俺を信頼してくれ」

「う、うん。それじゃ……」

奈緒は世紀の大告白でもするかのように、溜めに溜めてから、

「いや、私も、こういうの、似合うかなって」

顔を真っ赤にしながら、つっかえつっかえそう言った。

「は?」

「ほら、やっぱり馬鹿にした!」

思わず作ってしまった間抜け面に、奈緒が怒鳴る。いや待て、誤解だ。
38:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2013/06/07(金) 01:27:48.72 ID:hyKEm4cU0

「してない! ちょっと想像してたのと違うから驚いただけだ」

「何だよ、想像してたのって」

「いやほら、加蓮となんでツーショット撮ってるんだよ的な」

釈明をしてきたのは、まさにこういう事を言われたからなんだが、

「んー……」

奈緒は俺の答えに、しばらく眉を寄せて考えた末、

「Pさん、それはちょっと自意識過剰なんじゃ?」

またしても一刀両断してくれた。

「俺がどうこうって話じゃなくて、加蓮とそういう事するなって意味な!」

そりゃそうだ。釈明ってのに微妙な反応を見せたんだから、そういう意図じゃないと気付くべきだった。
その辺の気恥ずかしさから、思わず屁理屈めいた言い訳をしてしまったが、

「あぁ、なんだ。そういうこと」

奈緒は納得したようで、神妙な顔つきになる。ころころと表情の変わるのが、なんとも奈緒らしいというか。
39:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2013/06/07(金) 01:29:35.49 ID:hyKEm4cU0

「別にそういうのは思わないなぁ。だって、加蓮から撮ってくれって言ったんじゃないの?」

「ま、その通りだが」

「むしろ、加蓮や凛が迷惑掛けてごめんなさいって感じだし」

奈緒の妙に落ち着いた反応に、俺も少しずつ自分を取り戻す。

「……やっぱ、最年長だけあって奈緒はそういうとこ落ち着いてるな。普段は二人にからかわれてるけど」

「最後のは余計だよ!」

少し怒ってみせた奈緒は、しかしすぐに笑って、

「ま、ほら、私はさ」

照れくさそうに鼻と口元を手で隠しながら、

「二人ほど、夢も現実も見ていないから」

そんな事を言った。なかなか、詩的な表現だ。凛がうつったか……?

「……?」

「今のこの感じが、一番良いってこと。プロデューサーなら、そのくらい察せよ、ばか」

俺がいまいち言葉の意味を掴みきれずにいると、奈緒はそう付け足した。
40:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2013/06/07(金) 01:30:27.19 ID:hyKEm4cU0

奈緒の馬鹿、という言葉には色んな意味が込められている、ような気がする。
今のがどんな感情を込められていたのか、俺も正確には捉えられてないかもしれないが……

「そうか」

ただ、とても優しさと親しさの込められたものだったと思う。
それは俺に向けられたものか、或いはここにいない誰かに向けられたものか。

「……二人の事、頼むぞ」

「言われなくても。凛も加蓮も、他の事務所の皆も。私の大事な仲間だからな」

「頼もしいな」

それはつい漏れ出た俺の本音だった。付き合いが長くても、気付かない部分なんてものはいくらでもある。

「ふんっ」

「そんな頼もしい奈緒に朗報だ」

それを知れただけでも、今朝は凛の伝言板をやった甲斐はあったかもしれない。

「……?」

とは言え、だ。
41:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2013/06/07(金) 01:31:35.94 ID:hyKEm4cU0

「いやぁ、さっき仕事が舞い込んできてな。誰に任せようかと悩んでたんだが……」

「まさか、私に?」

何となく、奈緒に驚かされっぱなしでいるのも面白くない、なんて考えが過ぎってしまうのは、俺もまだまだ子供だからだろう。

「どうだ、こんな風にお姫様な感じを出して欲しいんだが」

先程の無言タイム中に送られてきたメールに添付されていた写真を奈緒に見せる。

「む、無理!」

その途端、奈緒はまたしても顔を紅潮させて両手でバッテンを作る。

「なんで?」

「そ、そんな可愛い感じの服、は、恥ずかしい……」

「何を恥ずかしがる必要がある。絶対に似合うぞ」

「え、いや、うん……ほ、ほんとに?」

しどろもどろになる奈緒を見ていると、何となく安心する。

「当たり前だ。俺はお前の何だ?」

「ぷ、プロデューサー、だよな」

それは多分、俺が彼女のプロデューサーでいたいから、じゃないかと思う。少し歪んでいるな、なんて自覚もしながら。

「そうだ。その俺が言うんだから間違いない。ついでにさっきの話に戻るが、ウェディングドレスも似合うと思うぞ」

「~~~~!」

あの落ち着きのあった奈緒はどこへやら。
42:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2013/06/07(金) 01:32:25.12 ID:hyKEm4cU0

「バカ! アタシはもうレッスン行くからな!」

ほとんど怒鳴るようにそう言い残して事務所を出ようとする奈緒を、慌てて呼び止める。

「あ、おい。それでこの仕事……」

「知らない! か、勝手にしろ!」

「あー……」

今度こそ、紛れもない捨て台詞。乱暴に閉じられた扉を眺めながら、

「つまり、OKと」

俺は、手帳のスケジュール欄に奈緒の名前を追加した。
43:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2013/06/07(金) 01:34:12.48 ID:hyKEm4cU0




「う~~、本当に、アイツは……!」

変な奴だ、と思う。
アタシなんかをアイドルにして……なんて言ったらあの人は怒るけど。
それでも、思ってしまう。アタシなんかをアイドルにして、可愛い服を着せて、それで似合ってるなんて言って。

「恥ずかしいことばっかりさせやがって……!」

何がしたいんだろうと思う。それで、あの人自身は何が得られるんだろうって。

だけど。

「あんなの、あんなフリフリの可愛い服なんて、アタシには……」

不思議と、口元が弛む。
心の奥底までは、強がりきれない。

「似合うわけ……」

アタシだって、女の子なんだ。知ってる。当たり前だ。

だから。

「似合う、のかな? 本当に?」

着飾って、それであの人が褒めてくれたら、やっぱり嬉しいんだ。

「また、喜んでくれる、のかな……?」

あの人と、一緒に笑ったり泣いたり、この世界を経験するのが、楽しいんだ。

「へ、へへ……」

そのために、私はここにいるんだろう。ここで、夢のような現実を生きているんだ。
44:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2013/06/07(金) 01:35:03.70 ID:hyKEm4cU0

アタシは凛ほど理想を望まない。加蓮ほど、現在を望まない。
その代わり、この心地の良い、嘘みたいな本当を護っていきたい。
いつまでも、凛が理想を目指せるように。加蓮が現実に飽いてしまわないように。
二人が、今のままずっと輝けるように。二人と、これからもずっと輝けるように。

あとは……そう、それから。

「……よし!」

まぁ、なんていうか……ついでに、あの人の笑顔も護れるように。

「今日もレッスン、頑張らないとな!」

END



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凛「プロデューサーってさ……」
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1370269835/

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  • 新年あけましておめでとうございます。 本日1月5日から平常更新再開いたしますので、改めて今年もよろしくお願いします。
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